大原扁理著『年収90万円で東京ハッピーライフ』のレビュー。
『年収90万円で東京ハッピーライフ』という本が面白かったのでそれについて書こうと思います。
作者の大原扁理氏を知ったのは、京大卒ニートのphaさんのこのブログ記事を読んだのがきっかけでした。
この記事にもある通り、著者の大原扁理さんは、多摩の家賃2万8000円のアパートに住み、仕事は基本的に週に2日だけするという生活スタイルで暮らしていて、本人はそれを"隠居”と呼んでいます。
同調圧力や空気に負けるな
この本の帯コメントを書いているのはホリエモンです。
ホリエモンというと、とてつもない行動派で、常に複数の仕事を猛スピードでこなしている超人なので、そういう意味では『年収90万円で東京ハッピーライフ』的なのんびり感とは正反対の人物なんです。
しかし、実は大原扁理さんとホリエモンは、
世間の常識や同調圧力に対する疑問
という点で考えが共通しているんです。
親も先生も信用してはいけない。就職しなくても生きていける。終身雇用なんて期待するな。世間の常識は疑ってかかれ。同調圧力や空気に負けるな。人生は一度きり。他人に自分の運命を左右されるのは御免だ。など、僕と考え方はほとんど同じだ。「働かざるもの食うべからず」なんて、古い。
(堀江貴文氏の帯コメントより引用)
これは、社会的成功から乗り遅れまくったら、不幸になるどころか毎日が楽しすぎて、ジョーシキっていったい何だったんだろう、進学しなきゃいけないとか、就職しなきゃいけないとか、結婚とか子育てとか老後の蓄えとか、資格も技能もマナーもテレビもスマホも友達も、なくても生きていけるものばっかりじゃん。もー自分しか信じないもんね。何が幸せとか、自分で決めちゃうもんね。おならプーだ。という本です。
(11ページ)
"こう生きるのが真っ当な生き方だ"みたいなのが世の中には多すぎる気がします。
具体的にはやっぱり、進学・就職・結婚です。
日本にはあたかもこの3つだけで人生が構成されているかのような風潮がありますよね。
昔はそれでも大丈夫だったのかもしれませんが、時代が進み、人々の生き方が多様化していくにつれて、この3つでは人生語れなくなってきてますよね。
しかも、メディアは、テレビなどの大衆向けのものは特にそうなんですが、進学・就職・結婚を"しない"ことを"できない"と表現することが多いです。「就職できない人が増えている」といった具合に。
で、そのレールから外れた人を冷たい目で見るんです。
でも、就職や結婚する人が減ってきているとしたら、それは人が悪いのではなく、進学や結婚といったシステムの方が破綻し始めているのでは?と考えるのがまともな思考だと思うんですよね。
まともだし、生産的というか。そもそもシステム・制度って、人間に利益を生むために元はといえば設計されたもののはずです。それなのに、制度に人間が合わなくなってきたときに人間側に問題があると言うのはどう考えてもおかしいと思うんです。
じゃあ、どんな場合にも当てはまる、いちばん大切なことって何でしょうか? それは、「どうすれば自分が幸せか?」を、他の誰でもなく、自分自身が知っていることじゃないかな。
(22ページ)
"実感"を大事にして生きる
今でこそ隠居生活をしている著者の大原さんですが、上京したばかりのころは、家賃7万円以上のシェアハウスに住み、仕事もバイトをいくつも掛け持ちしていたという状況だったそうです。
しかし、仕事のために生きているような忙しい毎日の中で、仕事以外のこと、たとえば食などについて、全く気にかけなくなってしまったことに疑問を持ち、家賃を下げ、仕事を徐々に減らし、今の生活に落ち着いたとのこと。
この『年収90万円で東京ハッピーライフ』には、「実感」という言葉が何回も出てきます。
大原さんは、"日々を実感"して生きることに重点をおいているそうです。
さて、起きたらまずは窓を開けます。どんなに寒かろうが台風だろうが。外の空気と部屋の空気が混じって、やがて入れ替わり始めると、なんか新しくなったという感じで、良い1日が始められそうな気がします。
(15ページ)
仕事などでとてつもなく忙しい時って、たとえば朝窓を開けるときも、空気を入れ替えるため、という実質的な理由のためだけになってしまうというか、そこに新しい1日の始まりとしての"実感"を感じることってできなくなってしまうと思うんです。
生活に余裕を持つことで、小さいことでも実感を得ながら生活できるので、精神的にもゆとりをもって生きていけるということなんだと思います。
この本の第3章「衣食住を実感する暮らし」では、大原さんが特にこだわりをもっている「食」について、かなりのページを割いて書かれていますが、ここでもやはり大事にしているのは日々の実感ということでした。
たまに外出先で、どうしてもお腹が空いて、知ってるお店も近くにないと、ファストフード店に入ることがあります。
そしてだいたい面白いです。
何が面白いかというと、そこにいる人がどうやって食べ物を食べているのかを観察することです。ほとんど機械的に食べていて、あんまり噛んでいなくて、ひたすら飲み干すだけの人、多し。のどごしを楽しんでいる。ざる蕎麦じゃないんだから。スマホいじりながらとか、ゲームしながらとか、食べ物に目もくれずに、思いも馳せずに食べる。「いただきます」も「ごちそうさま」もない。
(68ページ)
大原さんは基本的にほぼ自炊で、玄米に漬物一品に汁物、といった玄米菜食を実践されているそうです。粗食ですね。
面白いなと思ったのが、玄米菜食にしてから、細かいことで怒らなくなったりといった、精神的に落ち着くようになったということ。ちなみに肉を食うと欲が増すそうです。
人間の体は食べたものからできているとよく言いますが、肉体だけではなく精神的な面にまで、食って影響するんですね。
忙しくて余裕がないときって、イライラしがちですが、余裕がなくなって食べるものが適当になると、そのせいでさらに精神状態が乱れる、という悪循環に陥ってしまうわけです。
微調整を重ねて自分の生き方を見つける
本の中では何回も書かれていることですが、この本は隠居の良さを説明し、隠居を進める本ではありません。
むしろ、隠居は暇な時間が多いから、暇をつぶす能力がある人にしか向いてないよ、といったことまで書かれています。
大事なのは、経済面や体力面、精神面的に自分の快適なポイントというのを日々微調整を繰り返しながらそれぞれが見つけることだといいます。
人なんてみんなそれぞれ違うんだから、快適な生き方というのもそれぞれで違うはずです。大事なのは個人がそれを探すこと。
しかし、さっきも書きましたが世の中には"こうあるべきだ"という世間が勝手に決めた像があり、それが明らかに、不本意な生き方をして苦しんでいる人を増やしている気がします。
この『年収90万円で東京ハッピーライフ』を読み、「ああ、こういう生き方をしている人も世の中にはいるんだな」と知ることで、生きやすくなる人も多いのではないでしょうか。おすすめです。
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