通訳訓練としてのクイックレスポンスのやり方と効果
通訳スクールに通ってトレーニングをしているかずーいです。
有名な通訳訓練のひとつとして「クイックレスポンス」というのがあります。
クイックレスポンスとは、日本語か英語の単語を聞いたらそれをすぐさま訳していくというトレーニングで、短い単語やフレーズ単位での訳出の力をアップさせるための訓練です。
通訳訓練を始めてから、意識的にこのクイックレスポンスをするようになり、やっていくうちにだんだんとわかってきたことがあるので、今回は通訳訓練としてのクイックレスポンスのやり方と効果についてまとめていこうと思います。
なお、今回の記事に書く内容はぼくが通っているスクールで教わった内容とは一切の関係がなく、完全にぼく個人の見解です。
クイックレスポンスのやり方
さきほども説明した通り、クイックレスポンスでは、英語か日本語の単語を見て、それを瞬時に訳すというのが基本になります。
やっていることだけをみるとこれで説明はおしまいということになってしまうのですが、効果的にトレーニングするために意識しなければいけないコツが何点かあるので説明していこうと思います。
すばやく、かつ正確に
まず、いちばん大切なのは「スピード」です。
訳す単語を見たら、間髪入れずにさっと言う、というのを意識してやらないといけません。
後述しますが、考えて何秒か経ってから訳が出てくるという状態では通訳をする上での脳の負担を減らすことができないので、考えなくても自動的に訳が出てくるという状態にまでもっていく必要があります。
ただし、スピードを意識しつつも正確さにも注意しなければいけません。
以前、英単語の覚え方について記事を書きました。
この記事では、英単語を覚え切ったゴールとして次のように書きました。
最終的な"完全に覚えた"というゴールは、英単語を見た瞬間その単語が意味するイメージが一瞬にして頭に広がり、日本語の意味が頭に浮かぶのより速くその単語を理解できる、というレベルです。
普通の英語学習の場合、これでいいんです。
英会話をしたり、ニュースを聞いたり海外ドラマを英語で見たいというのが目標としてある場合は、単語を見てその単語のイメージが広がっていけばOKなんです。
ただし、通訳訓練となるとちょっと話が違ってきます。というのも、単語を正確に訳していかなければいけないからです。
たとえば、
endangered species = 絶滅危惧種
を覚えるとしましょう。普通の英語学習の場合は、「endangered species」を見て、
「絶滅しそうな動物のことね」
「イリオモテヤマネコとかそういういなくなっちゃいそうなあれね」
「なんたら危惧種ね」
というレベルで十分なんですが、通訳訓練の場合は、
「endangered species = 絶滅危惧種」
しか許されず、「ぜつめつきぐしゅ」と正確に言えなければいけないわけです。
どんな教材を使うのか
「tell」という英単語をクイックレスポンスするとします。
「tell」の訳を一瞬で言うわけですが、実はこれ、無理なんです。高校受験の英単語集などに出てくる訳としては「tell = 言う」とかになると思うんですが、実際には
I could tell she was nervous.
彼女が緊張しているのがわかった。
I've only told a few people.
2,3人にしか話してないよ。
のように、「tell」には「言う」「話す」「わかる」のようにかなり多くの訳出パターンが存在してしまいます。
これらの単語については、文脈が訳出パターンを決めていくので、クイックレスポンスにしてもあまり意味がないといえます。
これに対して、先ほど例に挙げた、「endangered species」は、ほとんどの場合で「絶滅危惧種」と訳してしまって問題がありません。
これらの単語、つまり専門性の高く、どんな文脈でもほとんど思考停止で訳してしまって問題がないものがクイックレスポンスに向いている単語ということができます。
教材については、自分がすでに持っている英単語集や、ノートに書きためたお手製の単語集があればそこから専門性の高そうな、クイックレスポンスができると利益が高そうなものを選べば問題がないと思います。
特に単語集を持っていない場合は、比較的専門性の高い単語が多く収録された『リンガメタリカ』や、
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ニュースに出てくる単語をフィーチャーした単語集を使うのがおすすめです。
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繰り返しになりますが、クイックレスポンスは専門性のある程度高い単語など、トレーニングすることで、通訳における利益がありそうなものをやっていくようにした方がいいです。
どんな単語もクイックレスポンスするとなると、効率が悪くなってしまいます。
単語集にこだわらずに、クイックレスポンスしたら効果ありそうだな、と思ったものを積極的にトレーニングしていくのも大事です。
ぼくは英語の長文を読んでいるとき、「これは単語単位で訳出できるようになりたいな」と思ったものについてはボールペンで線を引いてチェックし、あとでその部分だけを見てクイックレスポンスするようにしています。
「are branded as」と「prescience」に線が引いてあるのがおわかりになると思います。
これらの訳に該当する「~の烙印を押される」「先見の明」の日本語訳の部分にも赤線を引いておき、あとでそのボールペンで線が引かれた部分だけを見て、クイックレスポンスするわけです。
その他気を付けること
必ず声に出してトレーニングすることにしましょう。
わかっているつもりの単語でも、声に出してみると意外とクイックレスポンスできないということがあります。
また、音声を自分で録音してクイックレスポンスするというのも方法としてアリだと思います。ぼくはそういうのを作るのが面倒なのでやりませんが、音声を聞いてやった方が通訳という観点から見るとより本番に近いので効果は高いです。
クイックレスポンスの効果
訳出の際の負担を減らせる
サイマル・インターナショナル社長の小松達也氏の著作に『通訳の技術』という本があります。
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この本から、ちょっと引用してみます。
通訳の作業は話し手のいうことを聞いて理解することから始まる。正確な理解なくしていい通訳ができないのは当然であろう。通訳者にとって理解する力は最も大切な能力である。
(24ページ)
語句(words&phrases)に捉われずに話を通してスピーカーが伝えようとする大意をつかむことである。「メッセージ」といってもいい。私たちは、これまでの外国語の勉強の習慣で、とかく使われている言葉(語句と構造)にこだわる傾向がある。しかし、言葉は意味を伝えるための道具に過ぎない。語句に捉われることなく意味=センスをつかむのが理解だ。
(30ページ)
通訳では理解することからすべてが始まる。理解の際は伝えようとしているメッセージを受け取ることが大事で、細かい語句にとらわれてはいけない。
ということらしいです。
しかし、これは実際にある程度内容のある英文を通訳してみるとわかるのですが、結構細かい語句にとらわれてしまうんですよね。
「この単語(orフレーズ)、なんて訳せばいいんだろう・・・?」
というのが頭をよぎってしまうと、全体の流れがくみとれなくなってしまい、めちゃくちゃになってしまうんです。
このような状態を解決するための有効なトレーニングがクイックレスポンスです。
つまり、クイックレスポンスで単語や短いフレーズ単位での訳出が一瞬で考えずにできるようになると、文全体のより大きな流れをくみとることに集中できるろうになるので、訳出の力が上がると共に、語句について考え込まなくてよくなる分、頭の負担が減るんです。
実際、クイックレスポンスを日常的に行うようになると、訳出時のストレスが減っていくのを実感するでしょう。
背景知識力がアップする
クイックレスポンスをすることで背景知識力も上がります。
これは専門的な単語をクイックレスポンスしていると感じることなんですが、日本語ですでに知っている言葉でも、英語でその単語を何というのか知ることで、その言葉の理解がより深まります。
英語と日本語ダブルで専門用語を覚えることで、深いレベルまで理解できるというわけです。
通訳において背景知識の力は最重要な要素のひとつです。
専門的な単語をどんどんクイックレスポンスで消化していくことで、深いレベルで背景知識を習得していきましょう。
まとめ
というわけで今回は「クイックレスポンス」という通訳訓練法についてやり方と効果をまとめてみました。
クイックレスポンスは、通訳作業をスムーズにし、背景知識力も上げてくれる有効なトレーニングです。
知っているつもりの英単語でも、いざすばやく日本語に直せと言われたらできない単語は意外とあるので、それらをスムーズに訳出するためにも、通訳者をめざす人は積極的に取り入れていきましょう。
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